「兄弟」- 小樽市豊川町
パノラマで小説の舞台を辿る、パノラマ聖地巡礼。第一回目は、なかにし礼の小説「兄弟」の第二章 小樽に登場する豊川町である。
話は遡る…
先日、以前から気になっていた鈴木龍一郎氏の写真集「RyUlysses(リュリシーズ)」を見た、いや、正確には立ち観だ。アイルランドの作家ジョイスの「ユリシーズ」をモチーフにしたパノラマ写真集である。正直、ジョイスは読んだことが無い。しかし、その写真から、なにか北海道、日本海の風景にも通じるものを感じ、とても惹きつけられた。小説のイメージをパノラマで拡張するのか?スバラシイ。早速、ミーハーな私は、パノラマで小説の舞台を辿る旅を画策したのである、かなりの単細胞だ。
選んだ小説は、石狩湾を舞台とした、なかにし礼の自伝小説「兄弟」である。石狩平野の上で暮らしていると、風や雲からいつも日本海、石狩湾を感じる、そんな理由からだ。
内容は、なかにし礼氏と、博打好きの兄との壮絶な話。最後に「兄貴、死んでくれて本当に、本当にありがとう」と叫ぶところで小説は終わるのである。
第二章 小樽は、戦後、主人公が中国から両親の故郷、小樽の豊川町に引き上げて来た時の話である。第一章は、プロローグ的な要素なだけに、第二章に登場する豊川町は、いわば物語の始まりのシーンである。
なかにし礼著 小説「兄弟」第二章 小樽より引用
坂の多い小樽の街の、
豊川町はそのかなり高いところにあって、
海に向かえば街を見下ろす形になる。
放射線を描く家並みと道路の中心点に
小樽港がわずかに見える。中略
男は、豊川町八間通りの、
真ん中を一間幅の川が流れる広い坂道を、
ピカピカ光る茶色の革靴で、
滑る足を楽しむかのようによろけながら上がってきた。
この豊川町のイメージを頭に描きながら、地図を片手に琴似発 快速エアポートで小樽に向け出発。小樽までは約30分、車窓には石狩湾、そして日本海が広がる。頭の中は、豊川町から小説の山場?ニシンの群来のシーンへと進む。
小樽駅に到着すると、早速、駅の観光案内所で、豊川町の八間通りの場所を聞く。担当の方が方々電話で問い合わせてくれたが残念ながら不明とのこと。まあ大体目ぼしはついていたので、お礼をいって現地に向かうことにした。
ところが、現地にてお年寄りを中心に話を聞くが、人によっては、あっちの道だ、いや、この道だなど、これがなかなかハッキリしない。確かに、戦後まもない頃の話だから半世紀以上むかしのこと。ただ、真ん中を川が流れていたということより判断すると、やはり、想定した道、桜陽高校に続く通称 桜陽通り(写真左)のようだ。(もし、おわかりの方がいらっしゃったらご指摘ください。)
写真では分りにくいが、この道は、小高い山と山の間の谷間に位置し、いかにも川が流れていたような場所である。この道を兄は、滑るように上がったのだろうか?しかし、川も足下に潜り、街並も変わったのだろう、小説からイメージした風景とはいささか違ったのである。
であればと今度は、引用の前段をもとに、自分の想像した坂道を探し、あたりを彷徨った。そして辿り着いたのが、パノラマの地点だ。地図で見ると道路は放射状になっているし、坂の上からは小樽港がわずかに見える。回りの建物の枯れた感じも、自分のイメージした映像にピッタリだ。ここが、私の想像した、小説の中の豊川町である。
[小樽市豊川町]
場所:北海道小樽市豊川町
撮影:2010年06月02日
機材:Canon EOS 5D + Tokina 10-17mm @14mm + Agno’s MrotatorTCP
アプリ:Lightroom, Photo Shop, PTGui Pro, Pano2VR
ピクセルサイズ:9,886pix * 4,943pix
【サイト内関連情報】
panoramas:「兄弟」- 朱文別の夕焼けと鰊番屋
【関連情報】
Wikipedia:なかにし礼
コメント ( 2 )
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もちろん撮影中は「石狩挽歌」を口ずさんでいたんでしょうね。
心象的なモノクロ版パノラマも見たかったです。
kanekoさん、どーもです。
> もちろん撮影中は「石狩挽歌」を…
> 心象的なモノクロ版パノラマ…
このあたりは、次号あたりでガンバッテみます、ハイ(汗
鰊→北前船繋がりで、佐渡経由、パノラマで北前船を辿る旅なんていいなぁ…