櫻月(サクラムーン)
昨年の暮、閉店した櫻月(サクラムーン)、札幌円山地区の閑静な住宅街に在るレストランである。残念ながら、一度も入らずじまいであった。と言うのも、場所柄、小洒落た感あり、くたびれオヤジには、まー不似合いと言うか敷居が高かった。しかし、いざ、閉店の知らせを聞くと、あーやっぱり、行っとけばよかったなあと、小心オヤジは後悔する、いつものことだが。
そんな折、古民家鑑定士の石川さんの誘いで空き家となったお店を見る機会を得た。早速、ちょっと太めのニュータイヤ(笑)を履いた愛車トランジット号で円山方面に急行、もとい、20インチでは鈍行である。この時期(6月)の札幌は梅雨もなく自転車には最高の季節、いつもより多めにペダルを漕ぎたい気分だ。
早めに現地に着き辺りを眺めると、うっそうと茂る新緑の奥にその建物は在った。庭に面した正面が大きな弧を描く曲面となっている。桜の季節、さぞかし窓からの眺めがよかったことだろう、と思わずにはいられない建物だ。
そうこうしていると、石川さん、そして、建物のオーナーの親族で管理をされている桂田さん一家が到着した。鍵を開け中に入る。やはり、既に家主の居なくなった店内は薄暗く家具も無いガランとした状態で、木の床にコツンと響く足音のみである。一方、窓際は、木漏れ日が溢れ、想像したとおりすばらしい空間であった。
小一時間ぐらいだっただろうか、あちらこちらと徘徊し、最後に二階の窓際で、桂田さん一家の集合写真を撮らせてもらい解散となった。帰り際、櫻月について全く無知な私に、石川さんが、口には出さないが「これ読んで勉強してね」という意味だろう(汗)、建物について書かれた資料を貸してくてた。
で、調べてみた。
この建物は、北大初の女性教授で数学者、桂田芳枝氏が1954(昭和29)年に自宅として建てた家であること。
まだまだ女性の権利が認められていない時代、芳枝さんは持ち前の粘り強い性格で研究に邁進し、ローマやスイス等の留学を経て北大教授となり、微分幾何学の分野で国際的な研究成果を上げたこと。
家には、芳枝さんと姉の静枝さんが暮らしていたが、独身であった二人が亡くなった後、空き家となっていたこと。
その後、1988(昭和63)年にイラストレーターの鯨森惣七氏がレストランとして開業、後に、二代目にオーナーに引き継がれたこと。
そして、この建物の特徴的な部分である正面の曲面は、レストラン開業後、庭の眺めを楽しんでもらうため増築されたらしい。
建物や芳枝さんについて、もう少し知りたいと思い、見学当日お世話になった廣中(旧姓 桂田)幸子さんのお店を訪ねることにした。幸子さんはご主人と札幌市手稲区でQuatre Vents(キャトルヴァン)と言うフランス料理店を営んでいる。とても落ち着いていて、まるで南仏にでも居るような(あくまで想像で、本人は行ったことがナイ 苦笑)、そんな雰囲気のある素敵なお店だ。
店に入ると、幸子さんが笑顔で迎えてくれた。窓から白樺林の見える眺めのいい席に着き、お話を伺った。廣中幸子さんは、芳枝さんの兄、桂田尚さんの孫にあたり、芳枝さんが亡くなってから札幌に居る親戚が幸子さん一家だけだったので、幸子さんの父、明さんが建物の管理を頼まれていたようだ。
当時まだ幼かった幸子さんには、庭のふかふかした感触がとっても印象的だったそうだ。そして、もう一つ記憶にのこっているのは、書斎に沢山の洋書があったこと。資料にも有ったが、芳枝さんは、とても自然が好きだったらしい。話を聞きながら、庭の木々に囲まれ、書斎に篭もり研究を続ける芳枝さんの姿が容易に目に浮かんだ。
話は、建物見学当日に戻るが、
建物裏の離(物置)の二階には、まるで隠し部屋のような空間が有った。棚には、デザイン関係の本、タイプライター、ワインの瓶。壁には、ベーブ・ルース。床には、イラストの入った額。そして、天井には、サクラの枝越しに月が見えるであろう天窓があった。(2013年6月11日撮影)
コメント ( 12 )
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初めまして。
久々に桜月であのラムライスを食べたいと思い、ネット検索で閉店を知りました∑(°口°๑)
移転情報などないかな?と思い、さらに検索した所、こちらへ辿り着き、
美しいお写真に、沈みがちな気持ちにも晴れ間がさしこみ、
親しみと臨場感のある語り口調に、元気を頂きました。
ありがとう御座います。
長きにわたり続いていた暗いトンネル人生の原因がわかり、
やっとこさ気持ちが上向きになって来た今日この頃、
また、こちらのブログへ訪れたいです(。・ω・)ノ゙
シリウスさん、はじめまして
コメント有難うございます。
最近、とんと更新が途絶えていますが、
こんな素敵なコメントを頂くと、
私の停滞気味の気持ちも励まされます ^^
ありがとうございました。
そして、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
m(_ _)m
17年前まで学生で近くに住んでました。たまたま久々札幌に来てさらに円山に来た際に、急にここのこと思い出したが、閉店。しかし貴ホームページで助けられました
はなさま、はじめまして。
残念ながら、私は閉店後のお店しか知らないのですが、きっと素晴らしいお店だったんだろうなぁと、建物の雰囲気から感じました。何年経っても懐かしくて訪ねたくなるお店なんてとても素敵ですね ^^ コメントありがとうございました。
はじめまして。個人的に昔行ったお店を思い出し、いくつか調べてましたら、サクラムーンが閉店してるのを知り、ちょっと寂しい気持ちになりました。しかし、このページを拝見し知らなかった建物の歴史、ストーリーを知り、写真も細かく見ることが出来甦りました!私が行ったのは、かれこれ20年も前ですが、更に深く刻まれました!貴重な資料ありがとうございます。
やよいさん、はじめまして
もし、写真等を観て頂き、昔の思い出が蘇るとしたら、とても嬉しいことと感じています。コメントありがとうございました。
コロニアル風の増築部分が無い頃から時折訪ねては、寛ぎの時間を過ごさせて頂いた思い出深いお店でした。増築前は和風の佇まいでしたが、鯨森さんが裏参道で営まれていたトマトムーンを畳まれた後、櫻月が増築され、二つの店の雰囲気が融合したように記憶しています。懐かしい思い出です。
文彦さま、そんな経緯があったんですネ。
みなさんからお店についての話を伺うと、不思議と私も体験できたような気分になります、ありがとうございます ^^
懐かしい。
トマトムーン閉店後、お客としてもよく行きましたが、
イベント時にはMCもさせて頂き、
何より古民家大好物の私としては
前を通るだけでも堪らない感慨の場所でした。
2階の窓際から見下ろす春の桜が
本当に本当に見事で。
無くなってしまったのは、今でも残念でなりません。
みるこさま、コメントありがとうございます。
私も、そのサクラを一度観たかったです ^^
桜ムーン(櫻月)懐かしいですね。
素敵なお写真を有難うございます。
二度とお目に掛かれない風景ですから。
2012年に他界してしまった夫と、生前に時々コーヒ―を頂きに
立ち寄りました。
それはもう、忘れることのできない素敵な風景でした。
心安らぐ古民家で、春には見事な桜の木々に囲まれながら
至福の、と時を過ごさせて頂きましたことは素晴らしい思い出です。
コメント有難うございます。
この写真が多少なりともGantaroさまの思い出のお手伝いが出来たこと?とても嬉しく思います ^^